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猫の家から羽二重団子

漱石 Feel°C Walk (その1)

夏目漱石先生の千駄木旧居跡(通称・「猫の家」)の前を通りかかった後、あの有名な『草枕』の冒頭部分を読み返してみたくなった。

「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」
 

ここまでは、国語の授業で暗記させられる部分。リズムもユーモアもあってうまい。さすが漱石先生!という感じ。

しかし、続きを読んでさらにぶっ飛んだ。漱石先生が『草枕』の冒頭で宣言したことは、「だれにでもできる探究」さらには「だれでもがなれる目利き」そして「理不尽の世を面白くする希望」の本質だったからだ。

ということでみなさんにもこの感動をシェアしたいので、以下、長くなりますが、引用を……

「住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろ)げて、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降(くだ)る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊い。住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。あるいは音楽と彫刻である。」
 

何かがないと生きていけないと思う絶対主義と、人と比べて恵まれないと思う相対主義に縛られている限り、苦しみ多き人生を歩む希望を持てるはずがない。山の向こうに幸い住む国はない。そんなとき住みにくく、煩い多い世を、ファンタジーによって豊かにする。詩をつくり画を描き、歌を歌い、ものをつくるという Fantasy Work に没入するアーティストになるのだ。
 

ここまででもかなり素晴らしいのだが、ここから先がもう涙がこぼれるぐらい感動。
 

「こまかに云えば写さないでもよい。ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌も湧く。着想を紙に落さぬともきゅうそう(注:弦楽器のこと)の音は胸裏に起こる。丹青は画架に向って塗抹せんでも五彩の絢爛は自ずから心眼に映る。ただおのが住む世を、かく観じ得て、霊台方寸のカメラに澆季溷濁(ぎょうきこんだく)の俗界を清くうららかに収め得れば足る。」
 

詩を書かなくったって、絵を描かなくたって、詩人や画家というアーティストにだれもがなれるのだという宣言である。そのためにはただ「見る」そして「感じる」。それだけでよいということだ。「無声の詩人」「無色の画家」であっても、心の目に何が映ったのか、何が響いたのかを素直に受け止めることから始めればよい。私たちはみな「霊台方寸=魂の動き」を感じ取るカメラを持っていて、それを素直に働かせれば、ごちゃごちゃに濁った「世俗」から逃れて、面白いアナザーワールド=有難き世の姿を「見つける」ことができるのだ。
 

こうして人生を観察し、煩悩にとらわれない、面白い生き方を手にすれば、煩悩から逃れられなくても、つまらないとらわれに惑わされず、自分がやりたいなと導かれたことに没入できる。これ以上の希望があろうかと漱石先生は続ける。
 

Feel ℃ Walk によって「霊台方寸のカメラ」に映る「心眼」を育て、想像したことを Fantasy Work によって表現する。日々、淡々とこのサイクルを回しつつ生きる人こそ「ライフアーティスト」と呼ぶ。


「市川君やっと来たね。僕の家が最後かな」
 

と言いながら漱石先生ニヤリと笑う。いやあそういうわけでは……露伴先生、子規先生、荷風先生、鷗外先生、そして寺田寅彦先生と巡って、やっぱり真打ちは漱石先生ということで。
 

「ははあ、調子のいいこと言うね。で、あれ持ってきてくれた?」
「そりゃあ、もちろん!」
 

ということでお土産に先生大好物の羽二重団子を渡す。

読書して、墓をめぐって、語って、考える、ただそれだけ。でも、こうすると、本当に、過去の先生方と対面し、インタビューできる。
 

こうして日々、足で歩いて、見て、感じて、蓄積。それが TQ Feel°C Walk の醍醐味だ。

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